Bar Americano 2
私たちは朝食はホテルではとらない。 あの、泥水みたいなコーヒーを飲みたくないし、あの、人肌のぬるい紅茶も飲みたくないからだ。 イタリアに来て、バルでコーヒーを飲まないなんてあまりにもったいない。 口に馴染まないプーリアのカフェの中に、救世主のようにillyの看板を見つけてここに決めた。 ものすごい鷲鼻の若いお兄さんと、ちょっと歳のいったポーカーフェイスのおじさんのバルだ。 おじさんはあんまり笑わないのだけど実は案外親切で、カフェしか頼んでいないのにオマケに小さなクロワッサンやドーナツをつけてくれることがあったり、炭酸水を注いでくれたりすることがあった。 コーヒーは挽き立てでおいしい。 地元の人がたくさん集る顔見知りの多いバルでは、客は何も注文しなくても、店に入るとバリスタの方から「○○だね?」と声を掛け、客はそれを肯定するだけで、いつものが飲める。そんなバルはたいていおいしい。 そんな光景を眺めながら、いいなあ、と羨ましく思っていた。 私はあるとき突然、あんなに魅力的だと思ってたカプチーノの泡を、「飲むのに邪魔だな」と思うようになってしまった。 初めてイタリアでカプチーノを飲んだときは、日本に帰ってから泡立ちミルクを作るためのシュポシュポを買ったのに。今は全く使っていない。 そしてバルでも注文するのは朝はいつもカフェラッテだ。 友人Kはカプチーノ。 それを、ここのおじさんは最後の方に覚えてくれて、 とうとう、私も注文せずに、「Caffe latte ?」ときかれる、という体験をすることができた。 それだけのことなんだけど、なんだかとっても嬉しいものなのだ。 ここのバルで私が特別に面白いと思ったのは、よくある生ビールの蛇口みたいなのの、ミネラルウォーター版があったこと。 私が興味ありげにまじまじと見ていると、おじさんは足元の酸素ボンベみたいなタンクを引っ張りあげて見せてくれた。 それと蛇口がつながっているらしい。 しかしなんでこの店はAmericano 2なんていう名前なのか、ちょっと不思議だ。 1号店もどっかにあるのかしら。 アメリカンがおいしいのかしら。 ある朝、ここで「Due caffe americani !」 と注文したおじさんがいて、イタリアでアメリカンを見たことのなかった私たちは、ちょっと興味があったのだが、列車の時間に余裕がなくて、実物が出される前に店をでてしまったという経験がある。 アメリカンと、ホテルの泥水みたいなコーヒーとは同じものなのか。 または全く別のものなのか。 この次は一度、アメリカーノも頼んでみようかと思わされた。 帰りがけ、今日、バーリを発つ、と話したら、おじさんはまたも表情を変えずににこりともせずに、かといって冷淡でもなく、 「Oh, buon viaggio.」 と言った。 このおじさんの淡々キャラには、不思議とどこか惹かれるものがあった。 バルでの朝食が終わると、バーリでのイベントは全て終了。 私たちは一度ホテルに戻り、荷物を持ってホテルのフロントでタクシーを呼んでもらい、空港へ向かった。 《つづく》
by agrumi
| 2006-12-30 23:40
| 魅惑のプーリア
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