チンクエテッレ帰国後談話7・・・朝市と魚屋と船のチケット その3

チケット売り場の近くの石段の上に、私と同僚Iは腰掛けました。

ただひとつ心配なのは、私も同僚Iも、ものすごくツイテない星の下の生れだ、ということです。たとえば、スーパーのレジでも、パスポートコントロールでも、並んだ列は進まなくなります。進みが悪いなあ、と思い別の列に並びなおすと、こんど並びなおした方の列が進まなくなり、抜けた列が進み始めます。野球観戦に行けば応援しているチームは負けます。行楽地に出かければ霧が出て強風が吹く。思いっきり洗濯をしようと張りきって起きた休日は雨が降る、といった具体です。加えて同僚Iは、話をきいても信じられないような、漫画のようなおかしな体験によくさらされるという運命の持ち主です。

こんなふたりで大丈夫なのでしょうか。

c0101985_2234840.jpg同僚Iは犬とビーチが大好きです。チケット購入待期・・・といっても、船の出発まであと小一時間あります。目の前にはビーチが広がり、犬の散歩をしている住人が行き来し、時々波打ち際で犬を遊ばせたり泳がせたりしています。チケット売り場には様子をうかがいに来る人はちらほらいますが、まだ開いていないことを確かめると去って行ってしまいます。

同僚Iは我慢しきれず、ビーチを指して私に言いました。
「ねえ、ちょっとあっちに行ってきてもいい?」
「うん、いいよ。」私は彼女の鞄を預かって、石段に座っていました。
彼女は、犬の名前をきくために、"Come si chiama?" というフレーズを覚えました。ちゃんと犬のことをきいていることが分かるようなジェスチャーとともに使ってくださいね。飼い主が自分の名前を答えてしまうかもしれませんから。

同僚Iは、どんどん小さくなって、ビーチで犬と波と戯れ始めました。

やがて、チケット売り場を覗きに来る人たちが増えてきました。売り場の職員も出勤してきて、扉が開き、カウンターにチケットやパンフレット類が並べられ始めます。
「列」とまではいかないけど、ちょっとした順番待ちの状態になり、私もふたりの鞄を持ってその「待ち」集団に加わりました。

同僚Iは、楽しそうな後ろ姿を見せています。

チケットの販売が始まりました。
金額はだいたい把握していましたが、チンクエテッレからポルトヴェーネレの正確な金額表示はなぜかどこにも見つけられず、確実な値段はわからないでいました。ちょっとした列ができていて、私は3番目くらいにつけていました。
アマルフィでもそうでしたが、船の料金は意外と高いのです。5人分を一度に買うので、私が助っ人に期待していたのは財布です。万がいち持ち金が不足した時、一緒に払ってもらいたいと思っていました。

私は度々後ろを振り返って同僚Iの姿をとらえましたが、彼女がこちらを気にする気配はまったくありません。
彼女は今、チケット購入待機などという仕事にとらわれることなく、波と犬を存分に楽しんでいるのです。

私の順番が回って来ました。
その船着き場からは、ポルトヴェーネレだけではなく、他の街にも船で行くことができました。私は行き先と人数を告げます。
"Cinque a Porto Venere. Si può prendere andata e ritorno?"---チンクエテッレまで5枚。往復で買えますか
"Si."---はい
そういって窓口のおばさんが€25と書かれたチケットを手に取ったのが見えました。私はそれが片道のチケットで、往復だとひとり€50になるのか?と思い焦ります。
€250は持っていませんでした。
後ろを振り返りますが、もちろん同僚Iはこちらを見ていません。進んだり下がったり小刻みに動いて麦わら帽子のつばが揺れているところを見ると、ここからは見えないが足元あたりに犬がいて、遊んでいるに違いありません。
私はいちかばちか大声で彼女の名前を呼びました。
後ろに並んでいたおばさんが仰天して大きな目を見開いて私の顔を見据えます。申し訳ないっ!
が、その声は同僚Iに届くはずもありません。鞄は預かっています。いざとなったら財布を拝借するか? それとも列を一端外れて彼女を呼びに行くか・・・。
と思ったところ、窓口のおばさんは私に€125を請求しました。既に1枚のチケットが往復券になっていて、それが€25だったのです。

ほっ。よかった。私は€125を払ってチケットを受け取り、お釣りをしまって列を抜けて顔をあげました。すると、ついさっきまで遠くにいた同僚Iが、そこまで迫ってきていました。
どうやらチケット販売が始まったのに気がついて、急いで戻ってきたところのようです。「やっちまった顔」をしながら「ごめーん・・・」と同僚Iは戻ってきました。
「ああ、一時お金が足りないかと思って焦ったけど、大丈夫だった。チケット買えたよ。」

この絶妙なタイミングの悪さ。さすが、私と同僚Iのなせる業です。


ちなみにビーチで出会った犬の飼い主に"Come si chiama?"---名前は?
ときいてみたところ、飼い主の返事は
"Cane."---犬
だったそうです。え・・・それは知ってるけど・・・と、黙り込むしかありませんね。
"Come si chiama il cane?"ときかなくてはいけないのでしょうか。

出発まであと30分ほどになりました。だいぶ人が集まって来ました。
私たちはチケット売り場を離れ、その向かいの広場のベンチに座りました。はじめふたりだけでベンチの真ん中に堂々と座っていたのですが、地元の子どもたちが徐々に増えてきて取り囲まれました。
ちょっと遠慮してベンチの片端をあけたら、どんどんおしやられて隅っこにどうにか座っている状態になってしまいました。
そのうち、学校の先生らしき人が子どもたちにチケットのようなものを配り始めました。ベンチ周囲にたむろしている子どもたちに同化して、危うく先生は私たちにもチケットを配ってしまうところでした。
私の隣に座っている子どもがチケットを受け取ったと思ったら、次に私にチケッが差し出されたので驚いて顔を上げると、先生の方が驚いて、首を横に振って苦笑いしながら行ってしまいました。

やがて、先輩Aたちが戻って来ました。
魚は無事に買えたようです。イタリア語会話の本を使いながら、「アクアパッツァはダメだって。焼けって言ってた。」という魚を選んだようなので、今晩は焼き魚です。
私は頼み忘れたと後悔していたことをきいてみました。
「魚屋さんの写真撮った?」
「ああー、話するのに必死で、そんなこと思いつかなかったよー」
だよね~。あの魚屋、味のあるおじちゃんと珍しい魚とともに、最初立ち寄った時に撮影しておくべきでした。
ここでご紹介できないのが残念です。

魚屋組は魚屋組で、魚屋でエキサイティングなコミュニケーションをとり、アパートに着いてから買ったものの写真を撮ってから冷蔵庫に収め、こちらに向かう途中でジェラートを食べ、行き帰りの道のりは大変だったと思いますが、それなりに充実していた様子でした。

ここまでで既に1日終わったような達成感ですが、いよいよこれからポルトヴェーネレに向かいます。
[PR]
by agrumi | 2012-07-21 23:30 | チンクエテッレに住みに行こう!


<< チンクエテッレ帰国後談話8・・... チンクエテッレ帰国後談話7・・... >>