モンテロッソでは、本で見たリストランテに行くことを決めていました。
めでたくアパートの鍵が閉まったので、私たちは街に繰り出し、お昼を取ることにしました。 アパートは、駅を起点に街とは反対方向にあったので、駅からアパートはそんなに遠くないし、駅から街もそんなに遠くないんだけど、アパートから街まではけっこうあります。 ゆっくり歩いて約20分。 ところが、お目当ての店はみつかったが開いていなかったので、みんながっかり。おいしい店探しはわりと大変なので、1日目の昼食は店が決まっていることで気が楽だったのに、小さな観光地で美味しそうな店を見分けるのは難しいのです。 ここで、イタリアのおいしい店の鉄則をおさらいしておきましょう。 ・1本か2本、裏路地に入ること。 ・黒板にチョークで書いたメニューが店の外に掲げてあること。 ・家族経営規模の小さな店であること。 モンテロッソの中心は2本の通りがあるだけで裏路地に入りようがありません。この鉄則に従うと、おいしいのはこの店、ということになりました。 あとは、外で食べている客の皿をよく見て、できるだけ洗練されていない見てくれのものの方がおいしいことが多いので、きれいすぎないところを選ぶべし。 もうひとつ、候補にあげたリストランテがありましたが、こちらのトラットリアにしました。決め手は黒板の有無です。あと、経験上トラットリア>リストランテで当たりが多い印象だからです。 中に入ってみると、ニコリともしないおばさんが注文を取り皿を運び、厨房では不機嫌そうなおじさんがひとりで手際良く料理をしています。 これは、期待できる! この手のおばさんは、帰り際や料理をおいしいと誉めた時などに、とっても素敵な笑顔をみせるものです。 この黒板の中で私がとっても惹かれたのが、acciuge al limone というAntipastoです。 どういう料理かまったくわかりませんでしたが、頼んでみたいと思いました。 とにかく、海の街ですから、新鮮な魚介がおいしいはずです。 そしてこの手前は定番のミックスサラダ、奥のがacciuge al limoneです。カタクチイワシをレモンに漬け込んだものでした。 カタクチイワシといえば、日本でいういわゆるアンチョビという、しょっぱいオイル漬けしか知りませんでしたが、生はこんな食べ方もあるのですね。 いわゆるアンチョビもかなり好きですが、このacciuge al limoneは感動さえ覚える初体験となりました。イワシの旨味とレモンの酸味の組み合わせは、今までに知らなかったおいしさのカテゴリーです。 これの瓶詰はないかしら? 買って帰りたい! もしくは作り方を知りたい。 カタクチイワシなんて手に入るのかわからないけど、イワシでもどうにかなるんじゃないか? と、私はすっかりこの料理に惚れこんでしまいました。 もちろん、好みはありますね。 全員が私と同じように感動していたわけではありません。 Primoは海老のペンネにしました。 こいつがまた旨い~。 鍋ごとどーんとこの料理が運ばれてきてテーブルの真ん中に位置した時、私たちは「うわぁぁーー!」と歓声をあげました。 そのときのおばさんの、誇りに満ちた満足げな笑顔といったら! 謙遜が美徳の日本では、他人のこういう表情はなかなか見ることができません。ちょっと困った顔でもしながら「いえいえ、たいしたものではありません、お口に合いますかどうか・・・」とかなんとか言わないと。 でもおばさんからは、「どう? すごいでしょ? これがうちの海老のペンネよ! うちのがいちぱんおいしいわよ!」と、言いはしませんでしたが、聞こえて来たような気がしました。その誇らしげな顔に私は更にやられてしまいます。 うん、すごい、すごい、すごい! 海老のクリームソースはこれまで何度となく食べてきましたが、文句無しでこれが歴代1位です。 海老の出汁だけではなく、海老味噌っぽい濃厚な風味が白ワインをおいしくし、白ワインがまたペンネをおいしくします。 Secondoの海の幸のフリットの盛り合わせは、写真を撮る前にこんな姿になってしまいましたが、それだけみんなが喰いついたことの現れです。 そしてまた、もちろん全部おいしかったけど、これもカタクチイワシのフリットが絶品だったのです。 イワシ~、イワシ~、イワシ~。この旅行中、ふと気付くと、私の頭の中はイワシでいっぱいのことが度々ありました。 揚げ具合はサックサクだし、塩加減はちょうどいいし、おいしい店選び、成功です。 ワインはハウスワインを頼みました。 ごらんの通りかなり色が薄い。 今回チンクエテッレで飲んだワインはほとんど白でしたが、どれも「癖がなく飲みやすい」という私が好まない表現に当てはまるものでしたが、しかしながらすっきりとおいしくて満足のできるものでした。 クセこそがワインの個性で、個性あるものこそ価値があると思っていた私にとって、クセがないのに味に違いがあっておいしいとは、また新鮮な体験でした。 しかしながら、今回はワインは持ち帰りませんでした。 思えばリグーリア州で複数のワインを飲むなんて初めてのこと。 リグーリアの白は、リグーリアの風を心地よく感じながら地元の料理とともに飲んでこそおいしい、と思います。こんなにべったりとした、不愉快にまとわりつく湿った風の吹く国で飲んでも、おいしいと思えない。 お目当ての店は閉まっていたけど、充分満足のいく店を見つけました。 今回の旅で私が100%満足できたのはこの店だけです。 去年のトスカーナでも、100%の満足を提供してくれた店は1軒だけでした。 当たりが出る確率はその程度、ということでしょうか。欲求が高くなっているのも事実ですが・・・。
by agrumi
| 2012-07-14 22:54
| チンクエテッレに住みに行こう!
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